IT時代の著作権
著作権法が幅広く著作物を保護
    ©の意味は?】

     映画のポスターなどに「」というマークがついているのを見たことはありませんか?例えば「千と千尋の神隠し」を制作した「スタジオジブリ」のホームページには「 2003 STUDIO GHIBLI」と表示されています。

     この「」というマーク(マルシーマーク)、何を意味するかご存知ですか?実はこれは「著作権」つまりコピーライト(Copyright)の頭文字のCを取ったもので、「著作権をこの人が持っています」ということを明確にする記号なのです。

    【著作権とは?】

     著作権という言葉は、今や非常に良く知られるようになっていますが、特に最近は、インターネットなどの発達によりホームページの著作権の問題や音楽やビデオの違法コピーの問題など、新しい観点から著作権が脚光を浴びています。今日はそのようなIT時代の著作権を考えてみましょう。

     日本では著作権は「著作権法」という法律で守られています。現行の著作権法は昭和四五年に制定されたもので、明治三二年制定の旧著作権法を全面改正したものです。その後も何度も改正が重ねられ、特に最近はIT技術の発達を踏まえて重要な改正が毎年のように行われています。

     著作権法で保護される「著作物」は、例えば小説・脚本・音楽・絵画・映画などですが、それ以外にも建築物やコンピュータのプログラムといったものも著作物の一例です(法一〇条)。著作権法は非常に幅広く著作物を保護しています。

     著作権というのは、こういう「著作物」の「著作者」には「著作権」という権利を与えて保護しましょう、ということです。そう言ってしまうと何だか当たり前のことのように感じられるかもしれません。しかし、よく考えてみますと、著作権を保護するということは、重要な意味があることなのです。

文化発展のために著作権保護の必要

    【なぜ著作権を保護しなければならないのか?】

    本来、情報は自由に広まり、多くの人に伝わることが、みんなのためになることです。小説や音楽、映画やコンピュータプログラムというようなものも、沢山の人に知られてこそ意味があるものであり、ごく一部の人にしか知られないのは望ましくありません。憲法二一条が表現の自由を保障しているのも、文学のような情報も含めて表現が、自由に発表され、何の障害もなく広く伝わってゆくことが望ましいと考えられたからに他なりません。

     とすれば、本来、どんな「著作」であっても、自由に「複写」され、極端に言えば無料で伝わっていくことが世の中にとっては好ましいと言えるでしょう。更に、誰でも「翻案」(手を加えることをいいます)することが許されるとすれば、その著作をもとにより良い著作が発表されて、世の中の進歩や文化の発展に役立つかもしれません。

     しかし、そのような「複写」や「翻案」を無料で誰でもできる、ということにしてしまっては、時間やお金をかけて新しくそのような著作を作ろうという人がいなくなってしまい、文化が荒廃してしまいます。そこで著作権法は、著作者に「著作権」という強い権利を与えて、「複写」する権利(これが正にコピーする権利、Copyrightです)を著作者に留め置き、他の者には原則としてコピーを禁じて、著作者を保護することにしたのです。

    《著作権の内容》

     著作権法は、著作者におおむね次のような権利を与えています。

    1 複製禁止権

     著作者以外は複製(コピー)していはいけない、という権利で、著作権(copyright)の最も中核的な権利です。

    2 翻訳・翻案禁止権

     著作者以外は、著作物を他の言語に翻訳したり、脚色などして手を加えること(翻案)を自由にしてはいけない、という権利です。

    3 公衆送信禁止権

     平成七年改正で認められた権利で、テレビ・ラジオや、ケーブルテレビ(CATV)で送信することやインターネットのホームページに著作物をアップロードすること等が含まれます。

    4 貸与権

     レンタルレコード(CD)店が盛んになったため昭和五九年の改正で認められるようになった権利です。

    その他著作者に認められる権利には、上演権・演奏権・口述権・展示権などがあります。

     

    【著作者人格権とは?】

     以上のような財産的な権利とは別に、著作権法は、著作者人格権(著作者の人格を守る権利)を保護しています。具体的には、@公表権(公表するかしないか決める権利)A氏名表示権(著作物に氏名を表示するか否か、表示するとして実名かペンネームかを決める権利)B同一性保持権(著作物の内容を無断で変えられない権利)などがあります。このような著作者人格権は、著作者自身の一身に専属するものですので、他人に譲渡することができません。

    【著作権侵害の効果】

    著作権を侵害した場合、損害賠償の対象となることはもちろんのこと、差止(複製物の廃棄を求められることもあります)や場合によっては、三年以下の懲役または三〇〇万円以下の罰金に処せられることもありますので注意しなければなりません(著作権法一一九条)。

パソコンソフトの違法コピーに高額賠償が認められる例も
    【IT時代の著作権】

     一九九五年以降、ウインドウズ?の爆発的普及とインターネットの劇的利用増加が起こり、著作権の世界にも新たな問題が沢山生じています。IT時代の一つの大きな問題は「デジタル化」という問題です。音楽や映像というものは、昔はアナログ技術で録音・再生されていましたから、例えばレコード盤をカセットテープに録音することを繰り返すと、段々ひどい音になって聞くに堪えなくなる、という状況でした。ところが、デジタル化が進んだことで、何度録音を繰り返しても音も映像もほとんど劣化しない、つまりほぼ本物と同じ著作物が簡単にコピーできるという事態が生じてしまったのです。

    これは、「コピーを許しませんよ」という著作権(copyright)にとっては、重大な脅威です。例えば、アメリカではナップスターという、簡単に音楽ソフトをコピー(交換)できるコンテンツを有する会社に対しレコード会社各社が訴訟を提起して問題になっています。日本でも今年の一月一九日東京地裁で、日本MMOという会社が運営する「ファイルローグ」という会社のファイル交換装置がレコード会社各社の著作権を侵害する行為だから違法だ、という中間判決が出ました。

    《ソフトのコピー》

     また、最近は、会社に沢山のパソコンが置かれるようになりました。各パソコンに入っているワープロのソフト(例えばマイクロソフト社のワードや、ジャストシステム社の一太郎など)は、パソコンの台数分きちんと購入されていますか?最初から一台に一つソフトが付いている場合には良いのですが、他のパソコンについていたCD―ROMを使って他のパソコンにも安易にインストールしてしまう、といった例があります。これは問題です。本来、このようなインストールは一種のコピーですし、ソフトの購入時に結ぶ「利用許諾契約書」の内容にも違反した行為です。このような違法コピーに警鐘を鳴らした事件が、東京地裁平成一二年三月一三日の判決です。

    これは、「ある司法試験予備校を経営する株式会社が表計算ソフト(エクセル)やオフィス(ワープロソフトのワードを含む)などをパソコンの台数分ライセンスを購入することなくコピーして利用していた」として、マイクロソフトやアップルなどの会社が一億円余の損害賠償を請求した事件です。裁判所は、これらのコピーがマイクロソフト社などの許諾を得ていない違法コピーであることを認定して、著作権(複製権)侵害を理由に、この司法試験予備校側に合計約八四〇〇万円の損害賠償を支払うように命じました。司法試験予備校は、将来、判事・検事・弁護士を目指す人々が法律を勉強する場所ですから、本来、他人の著作権や権利保護・法律の遵守には敏感でなければならないはずですが、裁判所は、この予備校に著作権侵害行為があったことを明確に認定しています。

     御社でも、ワープロなどのソフトに本当に台数分のライセンスがあるかどうか、確認した方が良いのではないでしょうか(複数台使う場合には割引になる「ライセンスパック」というものも販売されています)。「みんなやっているから」では、いざというときには言い訳になりませんので注意が必要です。