訴訟費用の敗訴者負担
社長

お世話になってます。やっと事件が解決してほっとしてます。

弁護士

建築代金請求事件で争点が多くて時間がかかってしまったけど、請求額の8割が認められました。

社長

800万円認められたので、報酬は最初の契約通り98万円と消費税でよかったですね。

弁護士

はい。

社長

この弁護士報酬なんですが、私たち請求する側から見ると、本来払うべきものを払ってもらえない、それを回収するのに、回収の費用が自己負担というのは、どうも釈然としませんね。

弁護士

相手方に特に法律的な主張が無い貸し金請求事件などについては、おっしゃる通りですね。現実に今、こうした弁護士費用の敗訴者負担の制度が検討されてます。

社長 それは良いことですね。反対の声なんて全く無いのでしょうね。

弁護士 実は逆で、結構反対の意見も強いのです。

社長 何故です?

弁護士 裁判については、最初から見通しが立つ事件ばかりではありません。例えば長良川の堤防決壊による水害訴訟では、二つの原告団が別々に訴訟を起こしたのですが、第一審判決では一方が勝訴し、他方が敗訴しています。途中で裁判官の1人が交替したため結論が変わったようですが、他の2人は同じ裁判官です。高裁では両方とも敗訴しています。

 また、昨年新聞を賑わせたハンセン氏病の患者が国を相手に提訴した事件では、最終的には国の責任が認められたのですが、患者が強制的に隔離されたのは20年以上前です。時効という問題もあり、提訴する段階では絶対的な勝訴見込みがあったものではないと思います。どちらかと言えば、こうした被害者を放置しておいて良いのか、という問題提起の側面が少なからずあったものと思います。公害訴訟なども同じで、法律的には色々と難しい問題があり、それを被害者側の弁護団が新しい律構成などを考え、問題提起をしながら進めてきたものです。被害者側が勝訴した例もありますが、敗訴した例も沢山あるのです。

社長 なるほど。自分の弁護士費用だけでも持ち出しになるのに、敗訴したら相手方の弁護士費用まで負担させられるとすれば、とても怖くて裁判などできませんね。

弁護士 結果的に、訴訟を提起することをためらわせる結果につながることは否定できませんね。もう一つ、訴訟においては、立証責任と言って、自分に有利な事実は自分で証拠を出さないといけません。それが真実であったとしても、証拠が無ければ負けるのです。ですから、訴訟で「絶対」ということは少ないのです。

社長 そうすると、現在のところは、全ての事件で弁護士費用は自己負担なのですか?

弁護士 いいえ。事件や事情によっては、弁護士費用についても損害の一部として賠償が認められています。交通事故や医療過誤訴訟などではかなり認められた例が増えています。

社長 そうすると、現実には、個別具体的に処理されているわけですね。

弁護士 そうです。もう一つ考えていただきたいのは、弁護士費用の敗訴者負担のリスクは、立場の弱い人の方が不利になるということです。詐欺的商法やクレジット契約に関するトラブルでは、消費者に不利な内容の契約書が作られている例は少なくありません。弁護士の努力で少しづつ救済の手が広がっているとは言え、まだまだ弱い立場にあることは事実です。こうした事件で弁護士費用が敗訴者負担となると、ただでさえ争いにくい実態にあるものが、更に消費者が不利な立場に追い込まれることになるのです。

社長 我々中小企業と大手さんとの関係も似てるような気がしますね。

弁護士 制度的には、公害訴訟等については別にすることなども検討されていますが、例外とすべきものはそれに限りません。日弁連も反対の声をあげています。 (以上)