密室の暴行事件

 名古屋刑務所の刑務官(刑務所の職員)が、収容された受刑者に対して暴行を加えて怪我をさせた容疑で逮捕されました。過去に病死として扱われた事例についても、刑務官の暴行が疑われています。
 刑務所内のように、権力を握った側が弱い立場の収容者に対して暴行を加える事件は、過去の歴史においては珍しいことではありません。こうしたことから、日本の刑法においても、特別公務員暴行凌虐罪という、通常の暴行・傷害事案よりも重い刑罰が定められています。

 今回の事件の背景として、収容者が弁護士会に対して人権救済の申立を行い、これに対する取下げの強要行為が背景にあったと報じられています。弁護士会に対しては、人権侵害行為に対して救済を申し立てる制度が認められており、特に名古屋刑務所の収容者からは、これまでにも人権救済の申立が名古屋弁護士会に対して相当数なされていました。人権救済の申立があった場合、弁護士会の担当委員が出向いて調査することになりますが、これまで名古屋刑務所の収容者からの救済申立については、刑務所側は事実調査等に消極的で、名古屋弁護士会が下した勧告に対しても黙殺されることが多かったと聞きます。今にして思えば、今回のような事件があったからこそ、名古屋刑務所側が対応に消極的だったのではないかと思われます。

 制度的には、こうした刑務所等の施設における処遇についても、第三者がチェックできるシステムが必要であり、そうでないとこうした事件の再発を抜本的に防ぐことは困難です。しかし、残念ながら、弁護士会の人権救済制度についても強制的な調査権限は認められておらず、第三者のチェックは無いに等しいのが実情なのです。

 最後に、今回の事件では、刑事事件が激増し、定員を越えた収容者が刑務所に収容されているために、収容者も、また管理する刑務官もストレスがたまっていたとも報じられています。裁判所予算の相対的な低下傾向については先日も書かせていただきましたが、刑務所の予算についても裁判所同様増額されてこなかったようです。

 悪いことをした人だから刑務所に収容されているわけですが、だからと言って虐待が許容される筈もありません。「刑務所内の処遇の在り方は、その国の近代化の程度を如実に示す」という言葉を聞いたことがあります。司法予算も含め、こうした社会的に必要でありながら一般国民の目に触れることが少ない部分の予算が、据え置きという形で相対的に減額され続けている現状は、我が国の貧しさを象徴しているように思えてなりません。