50年ぶりの商法大改正〜ネット総会、金庫株など導入


 最近「商法改正」がよくマスコミで取り上げられていますね。

 はい。商法自体は明治44年に制定された古い法律ですが、昨今の社会経済情勢の変化に対応するため、ここ数年は毎年のように改正されています。特に昨年は、1年の間に3回も改正され、また今年も現在の国会で改正がされたことから、50年ぶりの大改正とも言われています。

 今回の一連の改正の特徴は何ですか?

 沢山の改正がされたのですが、簡単にまとめると、

 (1)IT社会に対応するための改正、

 (2)株価・景気対策のための改正、

 (3)ベンチャービジネスなどの新興企業が資金調達をしやすくするための改正、

 (4)株主代表訴訟制度関連の改正、

 (5)執行役員制度の法制化という5つの特徴があります。


(1) IT化

 「IT社会に対応するための改正」というのは、「ネット株主総会」などの導入ということですね?

 はい。今までは大会社のみで「書面」による議決権行使のみが認められていました。しかし、今回の改正では会社の規模を問わず電子メールを使って株主総会で議決することが認められました。今年の総会でも既に高島屋やNTTなどがネット株主総会を導入しており、今後も導入する企業が広がりそうです。また、手続を踏めば株主総会招集通知も電子メールでできることになりました。

 決算公告についてもホームページで出来るようになったと聞きましたが。

 商法では、会社は例外なく、どんな会社でも毎期ごと決算を新聞紙上等で公告しなければならないことになっており、怠ると100万円以下の過料の制裁があるのですが、大きな会社を除いて殆ど守られていないと指摘されていました。今回の商法改正で、ホームページでも決算公告することができることになったことから、この規定が遵守されることが期待されています。


(2) 株価対策

 「金庫株」が解禁になったんですよね?

 はい。「金庫株」というのは、会社の株を会社自身が所有することで、自分の会社の株を金庫にしまうような状態なのでこの名があります。市場の株を自社で買うことによって市場の株式数が減少し、一株あたりの株価は高くなることが期待されての導入でした。

 「単『元』株制度」が導入されたそうですが、従来の「単『位』株制度」とはどう違うのですか?

 最近は「ミニ株」のように小さな資金で株式投資を始めるう個人株主の潜在的ニーズがあり、株式市場活性化のためには、このニーズに応える制度である必要があります。しかし、単「位」株制度は額面5万円相当の株式を一単位として固定していたので、上場株式を購入するには相当の資金を必要とし、個人株主の株式市場参入を阻害していました。そこで、今回の商法改正では、単「元」株制度を導入し、「一単元」という単位(ユニット)を各会社が自由に引き下げることができるようにしたのです。


(3) ベンチャービジネス等の資金調達の機動化のための改正

 新株発行による資金調達の規制が緩和されたと聞きましたが?

 はい。株主以外の人(例えばエンジェル等の投資家)、に株式を有利に割り当てたり、小規模な会社(株式譲渡に取締役会の承認を要する会社〔譲渡制限会社〕)で第三者に株式を発行する際の株主総会の手続が少し緩和されました。また、新株発行は本来株主総会で決められるべき事項ですが、取締役会のみで機動的に資金調達ができるように、譲渡制限会社を設立する際に設立当初の発行株式の四倍までしか取締役会の決議で株式を発行出来ないという制限が撤廃されたのです。

 「トラッキング・ストック」というものができるようになったと聞いたのですが?

 今までは、「優先株」と言って、利益配当を他の株より高くするから株主総会での議決権はない、という株式が認められていました。

しかし、例えば、ある企業の特定の事業部門(例えばIT部門)や子会社だけに魅力を感じている投資家を呼び込むためには、企業全体の業績に応じた配当ではなく、その事業や子会社の業績に応じた配当をできる株式(たとえば「子会社連動配当株」)を発行することが必要になります。このような株式を「トラッキング・ストック」と言います。今回の改正の前でも、例えばソニーなどが類似の方式による株式発行を事実上行ってきたのですが、今回の商法改正では正式にこれを認めて、定款で、配当基準の要綱を定めておけば、このような「トラッキング・ストック」を発行することができるようになりました。

 「ストック・オプション」はどのように拡充されたのですか? 

 これまでのストックオプションは、従業員や役員などに報酬の代わりに自社株式を与えて、企業への忠誠心を高めたり、業務へのインセンティブを与える制度でした。しかし今回の商法改正では、取締役・使用人に限っていた発行先の制限を撤廃しました。これにより、例えば、取引先・公認会計士・弁護士・コンサルタント等にも「報酬を支払う代わりに当社の株式で支払います」という方法が可能になったのです。キャッシュフローの苦しいベンチャー企業には有難い制度だと思います。また、発行できる株式数や権利行使期間の制限(10年以内)も撤廃され、使いやすくなりました。

 じゃあ、毎月払う弁護士顧問料も来年からストックオプションでお願いできますか?

 うーん。それは、もう少し考えさせてください。


(4)株主代表訴訟制度関連の改正

 大和銀行事件等で役員に巨額の賠償を命じた判決がありましたね。

 その事件等をきっかけに、定款や株主総会で役員の賠償責任を制限できる旨の規定が設けられました。ただし、代表取締役は報酬の六年分、平取締役は報酬の4年分、社外取締役は報酬の2年分だけは免除できません。また、故意や重大な過失がある場合には、役員の責任は無制限であることは変わりません。役員としては法令遵守(コンプライアンス)に十分注意して会社経営にあたらなければならないことには変わりがありません。

 取締役の責任を制限する代わりに監査役制度を充実させる改正もあったと聞きましたが?

 まず、全ての会社に関係する話として監査役の任期が三年から四年に延長されました。監査役が簡単に辞めさせられないようにするためです。また、大会社の社外監査役を増員し(過半数)、かつ、ここでいう「社外監査役」とは、およそ過去に会社・子会社の取締役・使用人であった者は欠格となりました。

 えっ?前は、過去5年以内に取締役・使用人でなければ良かったんですよね。そんな簡単に社外監査役みつかりませんよ。

 この規定は平成17年12月までの猶予期間があります。思い当たる人がいない場合には、弁護士会で社外監査役の弁護士を推薦することもできますので、お電話でお問い合わせになってはいかがですか。

(5)執行役員制度の法制化

 最近はよく「執行役員」という肩書きを聞きますが、商法上の制度ではなかったのですか?

 従来は、「取締役」と「代表取締役」があるだけで、「執行役員」というのは法律上の呼び名ではありませんでした。しかし、今回の国会で改正された商法(公布後1年以内に施行予定)では、大会社に限り、役員指名を行う「指名委員会」監査業務を行う「監査委員会」取締役報酬を決める「報酬委員会」を設置し、これとは別に「執行役」「代表執行役」を設けるという組織形態をとることができるようになりました。少人数の執行役で機動的に会社経営を行うことができるようにするためです。このような組織を取った会社(委員会等設置会社)では、監査業務は監査委員会が行うので、監査役を置くことができないものとされています。

 非常に重大な改正ですね。

 今回の国会で成立した改正(平成14年改正)には、そのほかにも株主総会招集手続の簡略化・書面による株主総会決議の導入・取締役の報酬規制・資本減少手続の合理化などの重要な改正が含まれているのですが、この点は、また別稿にてご紹介したいと思います。