消費者庁・国民生活センターの地方移転に反対する会長声明
 現在、政府が「まち・ひと・しごと創生本部」に設置した「政府関係機関移転に関する有識者会議」(以下「有識者会議」という)において、徳島県からの提案を受けて、消費者庁および国民生活センターを同県に移転することが具体的に検討されている。
 政府の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」は、人口減少と地域経済縮小の克服として、地方から東京圏への人口流出に歯止めをかけ、「東京一極集中」を是正するため、「しごとの創生」と「ひとの創生」の好循環を実現するとともに、東京圏の活力の維持・向上を図りつつ、過密化・人口集中を軽減し、快適かつ安全・安心な環境を実現するとしている。そして、政府関係機関の地方への移転の取組は、同戦略に基づき、東京一極集中を是正する観点から,道府県等からの提案を踏まえ検討を行うものであるとしており、そうした提案が、その地域の発展の観点から「しごと」と「ひと」の好循環の促進に資するものであるならば、積極的かつ前向きに評価できる。 
 しかし、対象機関を選定するにあたっては、地方移転に伴い、当該政府関係機関が本来果たすべき機能が大きく低下することとならないか、慎重な検証が不可欠であって,有識者会議も、道府県等からの提案のうち「中央省庁と日常的に一体として業務を行う機関」や「官邸と一体となり緊急対応を行う等の政府の危機管理業務を担う機関」に係る提案、「現在地から移転した場合に機能の維持が極めて困難となる提案」などについては、受け付けない方針を示しているところである。
 この点、消費者庁は、食品偽装問題や中国産冷凍餃子への毒物混入事件など重大な消費者問題の発生を受けて、従来の消費者行政が各省庁による縦割りであったことによる弊害が問題視された結果、消費者行政を一元化し、安全安心な市場の確保を図るため、政府全体の消費者行政を推進する司令塔の役割を担うべき組織として創設されたものである。
 消費者問題は国民生活のあらゆる場面に関わる問題であり、消費者庁は、政府全体の消費者行政にかかる消費者基本計画の策定、消費者被害の発生・拡大の防止を図るための消費者安全法に基づく他省庁が所管する法律の権限の発動の働きかけ、所管法・所管大臣がないいわゆる隙間事案への対応や政策実施、法改正作業のための関連省庁・内閣法制局・国会議員との協議・調整など、日常的に他のほぼ全ての政府関係機関と連携し一体となって業務を行っている。
 大規模な食品被害など消費者の安全を脅かす事態に対しては、官邸および関係省庁との迅速な連絡協議によって様々な緊急対応を行うなど政府の危機管理業務を担うことが求められるが、2013(平成25)年暮れに発覚した冷凍食品への農薬混入事件に対する消費者庁による他省庁との密な連携に基づく迅速な対応は記憶に新しいところである。
 このように消費者庁は他の政府関係機関と一体的に業務を行うことが必要不可欠な機関であることは明らかであり、とりわけ、消費者庁がその司令塔としての実践的な役割を果たすためには、関係省庁との日常的な会議等の実施、法改正作業を迅速かつ頻繁に行うための法案立案作業に関する協議、衆参議員で開催される特別委員会への出席、各政党で行われる調査会、勉強会への出席等の国会対応等が不可欠であり、関係省庁に近接して設置されていることが望ましい。他の政府関係機関が東京に集中している現状において、地方に移転することになれば、通信機器の発達した現在おいても、その本来果たすべき重要な機能を低下させ、我が国の消費者行政全体の後退による国民の日常生活の安全が脅かされるのみならず、緊急事態への対応の遅れによって国民の生命身体への危険を拡大させる事態を招きかねない。
 また、国民生活センターは、全国の消費生活相談情報を集約・分析し、一般消費者や地方自治体に情報を発信するだけでなく、消費者庁や消費者委員会や各省庁の消費者関連法制度の不備や見直しの問題提起や立法事実となる資料提供などを行うなど、消費者庁ほか関連省庁との密接な連携により、政府全体の消費者行政を推進する機能を果たすことが求められているのであって、これを切り離して地方移転することは、消費者行政全体の機能を低下をもたらすことは明らかである。
 以上のとおり、消費者庁と国民生活センターはいずれも、有識者会議の示す移転の提案を受け付けない機関のまさに典型であり、これを地方移転することについては、強く反対する。

2015(平成27)年12月22日

愛知県弁護士会 会長 川上明彦