集団的自衛権の行使容認及び国家安全保障基本法案の
国会提出に反対する意見書

2013年(平成25年)10月11日
愛知県弁護士会 会長 安井 信久



 

意見の趣旨
 

1 集団的自衛権の行使は許されないとする確立した憲法解釈を変更し、集団的自衛権の行使を容認することに反対する。

2 集団的自衛権の行使を容認する国家安全保障基本法案の国会提出に反対する。
 

意見の理由
 

1 集団的自衛権行使を容認する最近の動き

 2012年12月の総選挙で自由民主党(以下「自民党」という。)が大勝し、政権与党となったことを契機に、集団的自衛権の行使を容認する動きが急速に進んでいる。

 安倍晋三内閣総理大臣(以下「安倍氏」という。)は、2013年1月13日に放送されたテレビ番組で、「集団的自衛権行使の(憲法解釈)見直しは安倍政権の大きな方針の一つ」と述べ、また、日米両政府は、有事の際の自衛隊と米軍の協力の在り方を定めた「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)を見直す作業に着手する予定であるが、我が国の集団的自衛権の行使容認も視野に入れた作業になると報じられている。

 同年2月8日、「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(以下「安保法制懇」という。)が約5年ぶりに再開された。安保法制懇では、2008年にまとめられた「集団的自衛権行使を求める報告書」で検討された4類型(公海における米艦艇の防護、アメリカに向かう弾道ミサイルの迎撃など)に限定せず、集団的自衛権行使を全面的に容認する方向で検討作業が行われていると伝えられている。政府高官や安保法制懇の中心メンバーからも「必要最小限の集団的自衛権は行使できる」「多国籍軍に自衛隊が参加出来る」などの発言が続いている。その後、安倍氏は、同月に行われたオバマアメリカ合衆国大統領との首脳会談において、歴代首相として初めて、集団的自衛権の行使容認に取り組む考えを明らかにした。

 続いて、安倍氏は、同年8月、内閣法制局長官を更迭し、2008年にまとめられた報告書作成作業を安保法制懇の柳井座長の下で支えた小松一郎駐仏大使を後任の長官に任命した。これは、集団的自衛権行使は憲法上許されないとの歴代政府の確立した憲法解釈を変更する布石と言われている。


2 集団的自衛権に関する政府の見解

 政府は、従来から、憲法第9条第1項が戦争放棄、同第2項が戦力の不保持と交戦権の否認を規定していることを前提として、憲法第9条の下で許容される自衛権の発動については、次の3要件に該当する場合に限定している(1969年3月10日参議院予算委員会・高辻正己内閣法制局長官答弁、1972年10月14日参議院決算委員会提出資料、1985年9月27日政府答弁書)。すなわち、@我が国に対する急迫不正の侵害(武力攻撃)が存在すること、Aこの攻撃を排除するため、他の適当な手段がないこと、B自衛権行使の方法が、必要最小限度の実力行使にとどまること、である。

 そして、上記を前提に、政府は、1981年5月29日の政府答弁書において、集団的自衛権について「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもつて阻止する権利」と定義した上で、「我が国が、国際法上、このような集団的自衛権を有していることは、主権国家である以上、当然であるが、憲法第9条の下において許容されている自衛権の行使は、我が国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものであると解しており、集団的自衛権を行使することは、その範囲を超えるものであって、憲法上許されない」旨の見解を表明した。この政府見解と憲法解釈は、その後一貫して維持されている。

 したがって、外国が武力攻撃を受けた場合に、その国がたとえ日本と密接な関係にあるといえども、自衛隊が集団的自衛権を行使してその武力攻撃を阻止することは、上記@の要件を欠き、自衛権行使の必要最小限度の範囲を超え、憲法に違反して許されない。これが政府の確立した見解である。

 また、政府は、憲法解釈の変更により集団的自衛権の行使を認められるかについては、「集団的自衛権の行使を憲法上認めたいという考え方があり、それを明確にしたいということであれば、憲法改正という手段を当然とらざるを得ない」と答弁し(1983年2月22日衆議院予算委員会・角田禮次郎内閣法制局長官答弁)、さらに、集団的自衛権に関する憲法解釈の変更があり得るのかについて、「(政府の憲法解釈は)それぞれ論理的な追求の結果として示されてきたもの」であり、その上で「政府がその政策のために従来の憲法解釈を基本的に変更するということは、政府の憲法解釈の権威を著しく失墜させますし、ひいては内閣自体に対する国民の信頼を著しく損なうおそれもある、憲法を頂点とする法秩序の維持という観点から見ましても問題がある」と答弁し(1996年2月27日衆議院予算委員会・大森政輔内閣法制局長官答弁)、さらには「憲法は我が国の法秩序の根幹であり、特に憲法第9条については過去50年余にわたる国会での議論の積み重ねがあるので、その解釈の変更については十分に慎重でなければならない」(2001年5月8日政府答弁書)として、憲法解釈の見直しに慎重かつ否定的な姿勢を貫いてきている。


3 集団的自衛権に関する日本弁護士連合会の意見

 日本弁護士連合会は、2005年11月11日、第48回人権擁護大会において、立憲主義、国民主権、基本的人権尊重、恒久平和主義を憲法の理念及び基本原理として確認し、集団的自衛権の行使を認めた上でその範囲を拡大しようとする改憲論議に対し、日本国憲法の理念や基本原理を後退させることにつながりかねないとの危惧を表明する宣言を採択し(「立憲主義の堅持と日本国憲法の基本原理の尊重を求める宣言」)、2008年10月3日、第51回人権擁護大会において採択された「平和的生存権および日本国憲法第9条の今日的意義を確認する宣言」は、「憲法第9条は、現実政治との間で深刻な緊張関係を強いられながらも、自衛隊の組織・装備・活動等に対し大きな制約を及ぼし、海外における武力行使および集団的自衛権行使を禁止するなど、憲法規範として有効に機能している」としている。

 さらに、日本弁護士連合会は、2013年3月14日、「集団的自衛権行使の容認及び国家安全保障基本法案の国会提出に反対する意見書」を発表し、同年5月31日に行われた定期総会において、「集団的自衛権の行使容認に反対する決議」を採択している。

 当会も、これら集団的自衛権に関する日本弁護士連合会の意見に賛成するものである。


4 国家安全保障基本法案の問題点

 2012年7月に、自民党総務会が決定した国家安全保障基本法案(概要)は、政府が憲法上許されないとしている集団的自衛権の行使を、憲法改正の手続を経ることなく、法律により容認しようとするものである。

(1) 憲法違反の集団的自衛権行使を法律で容認

 国家安全保障基本法案第10条は、「国際連合憲章に定められた自衛権の行使」というタイトルの下に、「我が国、あるいは我が国と密接な関係にある他国に対する、外部からの武力攻撃が発生した事態であること」(第1項第1号)を、我が国が自衛権を行使する場合の遵守事項と定めている。つまり、我が国は当然に、国際連合憲章が定める集団的自衛権を、憲法第9条の制約なしに行使できることを前提としているのである。その上で、国際連合安全保障理事会への報告(同項第2号)や「終了の時期」(同項第3号)、「我が国と密接な関係にある他国」と判断できるための関係性(同項第4号)、被害国からの支援要請の存在(同項第5号)などの遵守事項を定めている。

 このような憲法違反の集団的自衛権を認める法律は、憲法第9条及び第98条第1項により、その効力を認められない。

(2) 議員立法による憲法適合性審査の潜脱

 我が国においては、内閣が提出する法案については、その憲法適合性の審査を内閣法制局が行うことによって憲法の最高法規性(憲法第98条第1項)を担保しようとしている。しかし、議員立法については、内閣法制局は関与せず、衆参それぞれの法制局が憲法適合性について意見を述べ、国会議員が法案を提出することが可能である。

 自民党は、集団的自衛権の行使を容認する国家安全保障基本法案が、内閣法制局の法案審査を受ければ国会提出が困難であることを忖度し、これを回避するために議員立法として国家安全保障基本法案を国会へ提出することも検討していると伝えられている。

 このような憲法適合性の審査を潜脱する方法で、憲法に違反することが明白な法案の成立をはかる試みは、憲法の最高法規制を無視するもので、到底容認することはできない。

(3) また、最近、国家安全保障基本法案を閣議決定し、閣法として国会に提出しようとする動きもある。

 しかしながら、前述のように、同法案が憲法に違反することは明らかであり、国会に提出できるものではない。


5 当会は集団的自衛権の行使容認に反対する

 憲法前文と第9条が規定している恒久平和主義、平和的生存権の保障は、憲法の基本原理であり、時々の政府や国会の判断でこれらの基本原理に反する解釈を行うことはもとより、これらの基本原理に反する法律を制定することは、憲法を最高法規と定め(第10章)、憲法に違反する法律や政府の行為を無効とし(第98条)、国務大臣や国会議員に憲法尊重擁護義務を課することで(第99条)政府や立法府を憲法による制約の下に置こうとした立憲主義に真っ向から反するもので、到底許されるものではない。

 よって、当会は、憲法の恒久平和主義と立憲主義を堅持する立場から、憲法の下で禁じられている集団的自衛権の行使を、政府が従来の解釈を変更して容認することや、集団的自衛権の行使を容認する憲法違反の法律案の提出に断固反対する。