外国人研修・技能実習制度の抜本的改正を求める意見書

2009年1月22日

愛知県弁護士会 会長 入 谷 正 章


第1 意見の趣旨

国に対し、

  1. 研修生の実務研修に関し労働関係諸法の適用を受けると同様の保護を与える立法を行うこと、及び団体監理型研修制度を廃止することを含めた、制度の抜本的な見直しをなすこと
  2. 同制度が改正されるまでの当分の間は,外国人研修生・技能実習生の受入機関に対する指導、監督をより強化することを求める。
第2 意見の理由
1 外国人研修生・技能実習生受入制度の沿革

日本における外国人研修生受け入れは1950年代後半に始まり、1989年の入管法の改正により在留資格に「研修」が設けられた後、1990年に研修生制度を改正、いわゆる「団体監理型」(中小企業団体等を通じて中小企業等が研修生受入を行う形態)を導入し、受け入れの条件の緩和が行われた。

また、1993年には、研修を終了し所定の要件を充足した研修生を技能実習生として雇用関係のもとで引き続き本邦に在留できることとなし、1997年には実習中の滞在期間が2年に延長(研修での滞在期間と合わせて最長3年)され、現在の制度となった。

2007年における在留資格「研修」の新規入国者数は約10万2000人、技能実習への移行者は約5万4,000人、技能実習中の者は10万人近くにも上り、合計20万人が国内で働くに至るなど、研修生・実習生の数は年々増加してきている*1

2 研修・技能実習制度の趣旨

外国人研修生制度は、「開発途上にある国々に対して技術・技能を移転させることを目的として、我が国に研修生を招いて技術移転による人材育成を行い、それらの国々の発展を支援するという長く広くその効果が浸透していく国際協力・国際貢献」(法務省入国管理局)であるとして制度化された。

技能実習制度も、研修制度の拡充の観点から研修を終了し所定の要件を充足した研修生に、雇用関係の下でより実践的な技術・技能等を修得させ、その技能等の諸外国への移転を図り、それぞれの国の経済発展を担う「人づくり」に一層協力することを目的として創設された。

「研修」は入管法で「本邦の公私の機関に受け入れられて行う技術・技能又は知識の習得をする活動」と定められている。研修生は、「技術を学ぶ者」とされるため、研修中は報酬を受ける活動が禁止されており、受領する給付は研修手当(生活実費)であるとされる。残業や休日労働はさせられないかわり、非労働者として労働関係諸法の適用を受けないとされてきた。

研修・技能実習制度は、多くの法令や告示等により規定され運用されているが、これらの諸規定は、研修生や技能実習生が入国・在留するための基準として定められているものであり、受入機関からみた留意事項や不正行為については、法務省入国管理局による「研修生及び技能実習生の入国・在留管理に関する指針」を除くと直接の定めがなく、責任ある監督機関も定められていない。

そのため,現実には、以下に述べるとおり、制度趣旨とあまりにも乖離した実態が存在する。

*1 厚生労働省 平成20年6月 研修・技能実習制度研究会報告(以下研究会報告という)2頁

3  研修生の労働者としての保護の欠如

研修生の多くが研修の実態はないまま「実務研修」と称して長時間の労働をさせられている。

入国管理局が平成19年に不正行為と認定したもののうち、提出された研修契約や雇用契約と異なる契約が実際には存在した二重契約と認定されたものが8件、研修・技能実習計画との齟齬が認められたものが36件、本来の受け入れ先とは異なる企業に研修生・実習生が派遣されている名義貸しが115件*2にも及ぶ。

研修生に支払われる研修手当の平均額は2005年で月額6.6万円、月8万円未満が84.4%という実態*3に見られるとおり、仮に賃金とすれば最低賃金に達しない水準の給付しか得られないうえ、現実には、時間外や休日労働をさせられている。平成19年度に入国管理局より「不正行為」と認定を受けた、研修生に時間外労働をさせた例だけでも98件*2にものぼる。法務省入国管理局の指針*4でも、研修生に月100時間を超える所定時間外*5労働を行わせていた企業や月130時間を超える残業をさせていた企業が不正行為と認定されている。本制度をめぐる問題事案の増加を受けて、関係行政機関及び本制度の支援機関である財団法人国際研修協力機構(JITCO)において、制度の適正化に向けた取り組みを強化しているにもかかわらず、依然として不正行為は頻発している。

時給100円や時給350円の残業手当しか受け取ることができず、日本人に比べ差別な扱いを受けている違反例も報告されている。さらにそこから管理費その他の恣意的な名目で控除されることも希ではない。そのうえ、強制貯金をさせられ、しかも通帳や印鑑まで受け入れ企業が管理しているケースも珍しくない*2 平成17年にJITCOが相談を受けた内容のうち、61件は強制貯金、罰金、帰国脅迫など不当な管理を内容とする相談である*6

当会が昨年9月13日に開催した「ワーキング・プアを考える」シンポジウムでも、研修生が自己の労働条件に関し、「毎日4時間の残業をさせられる。研修生の中には7,8時間の残業をする者もいる。私は休日である土曜日も月3回は出勤した。残業中の時給は350円で、研修中の月収は5万6000円、そのなかから毎月2万5000円を強制的に貯金させられた。退社した後も貯金を返還してもらえなかった。」実態を切々と述べた。

労災補償がない点も深刻である。ある相談事例では、プレス機の操作ミスで、手の指を切断する事故に遭い、後遺症を負うという、客観的には、労働災害の典型事例であるにも拘わらず、研修生という特殊な地位にあることから、労災の申請を、労働基準監督署に受け付けてもらえなかった。また、当会会員が相談を受けた事例によれば,食品製造工場に研修するために来日した研修生2名がいずれも11ヶ月間の間に,土日を含めて休日が3日しか与えられず,午前6時半から午後9時まで冷凍食品の製造に従事し,両手首が腫れて炎症を起こしても病院へは行くことが出来なかった。

このような扱いは、労働者の実態のある者に対し、法令の保護のみが与えられない取り扱いを許すことになり、結果として、受け入れ企業が研修生を低賃金労働者として利用することを促す結果となっている。

*2 研究会報告5頁
*3 2006年8月 JITCO業務統計
*4 入国管理局 平成19年12月研修生及び技能実習生の入国・在留管理に関する指針
*5 入国管理局 平成18年度の不正行為認定について
*6JITCO 平成17年受け入れ実態調査

4  技能実習生に対する労働法規違反の横行

また、労働関係法規の適用のある技能実習生に対しても「労働関係法規違反」が横行しており、「不正行為」の31.7%を占めている。法務省入国管理局により認定された受け入れ機関による「不正行為」は近年激増しており、入国管理局が発表しているだけでも2007年度には合計449件もの不正行為が報告されている。また、2006年に労働基準監督機関から違反事業場とされた事業場は1,209件であり、監督指導件数も1,633件とこちらもここ数年大幅に増加している。*2 

また、JITCOが公表しているところによれば、2008年度だけでも7月までの4ヶ月間に20歳代、30歳代の研修生・実習生がすでに12人も急性心不全や心筋梗塞で死亡している。

制度改正だけではなく、指導・監督のいっそうの強化が求められている。

5  人権侵害行為

受入機関における人権侵害行為も横行している。法務省入国管理局により認定された受け入れ機関による「不正行為」のうちの、「人権侵害行為」は、70件にもおよび*2、法務省入国管理局が「看過できない状況」*4と指摘する事態が生じている。

研修生の旅券や預金通帳を取り上げ、携帯電話の所持を禁止し、夜9時以降の外出を禁止したり、遠出の外出を禁止するほか、部屋の施錠を忘れた場合や内履きで屋外に出た場合の罰金を定めた受入機関の存在など、入国管理局によって多数指摘されている。

また、JITCOの平成19年度における巡回指導でも、不適正なパスポートの管理が指導された企業は25存在する。また、JITCOには平成19年度に31件もの受け入れ機関による暴力やセクハラの相談も寄せられている*6。これらの現状を受け、昨年3月25日の閣議決定は、早急に講ずべき措置の一つとして、受入機関の適正化を図るため、「不正事案については入国管理局及び労働基準監督機関の間との綿密な連携の下に・・・積極的に実態調査または臨検監督を実施」することとした。

政府は、かかる閣議決定に従い、早急に実施を具体化すべきである。

6  在留継続の問題

入国管理局では、研修・技能実習に関し不適正な行為を行った機関に対しては、「不正行為」の認定を行い、研修生の受入を3年間停止することとしているが、その際、不正行為認定された機関に受け入れられていた、在留期限が残っている研修生たちに対する保護が必要になる。

この点に関しては、昨年3月25日の閣議決定においては、平成20年措置として「受入機関が不正行為の認定を受けた場合及び受入機関の倒産等により研修・技能実習が継続できない場合」には「他の機関に受け入れられる場合には引き続き在留が認められる」ことを明確にし、「他の受入機関において研修・技能実習を継続できるよう受け入れ先機関の開拓を行う仕組みを構築」する旨の決定がなされているが、未だに具体化はしておらず、受入機関や研修生任せになっている。かかる方針を徹底する必要がある。

研修生が、受入機関の問題により受け入れ先を変更する必要がある場合に、次の受け入れ先を探す手続きを早急に構築し、研修生への支援がはかられなければならない。

また、労働災害があった場合や残業代を巡って労使間に問題が生じた場合、受入企業が在留期限の更新に協力しなかったり、場合によっては、航空券を手配して、空港まで連れて行き、強制的に帰国をさせている事例がある。たとえば、当会会員が相談を受けた事例によれば,ボール盤の操作を誤って指を切断する事故に遭った技能実習生が,事故から約1か月後の早朝,受入機関の車両で強制的に空港へ搬送され,受入機関から全身所持品検査を受けた上で,書類や携帯電話等を奪われ,予め用意された航空券と会社が所持していた旅券を渡され無理矢理上海まで渡航させられている。

このような事態を含め研修生の抱える問題に対処するため、研修生・技能実習生であれば誰でもアクセス可能な母国語での相談窓口、ホットラインなどが設けられるべきである。

7 送り出し機関の問題

外国人研修生が、来日に先立ち、本国の送り出し機関との間で締結している契約内容についても多くの問題が存在する。

研修生は来日する前に多額の保証金を支払い、もし途中で帰国するような場合には、保証金を失うという内容の契約を結ばされていることが多い。JITCOの平成19年度に受け付けた相談内容のうち、75件は途中帰国の場合の保証金返還や賠償請求に関する相談である*6。このため、研修生・実習生は人権侵害行為を受けても、最大3年間の我慢を強いられることとなっている。また、失踪による不法就労の原因とも指摘されるところである。このような約定は公序良俗違反および労働基準法16条違反(賠償予定の禁止)に他ならない。

さらに予め残業代を時給250円とするなど最低賃金法違反の残業代の定めを受け入れ機関と送り出し期間とが結ぶ事例*7や、強制貯金の約定を締結する事例、旅券や通帳を預かるよう指示する事例や、受け入れ機関が負担すべき管理費月2万円を研修手当から差し引いている事例などが入国管理局から不正行為として摘発されている。

2007年12月の規制改革会議第2次答申においても「受け入れ機関の不正行為に遭遇しながらも研修生・技能実習生はみずからが途中帰国させられることをおそれ、被害の実情を入国管理局・労働基準監督機関等に申告することを躊躇する傾向にあるため不正行為が減少しないとも指摘されている」と同様の指摘がなされている。

このような事態を重く見て、上記閣議決定においては、平成20年措置として「研修生・技能実習生の送り出し機関が不当に保証金や管理費等を研修生・技能実習生から徴収している実態やこれらを不当に返還しない等の事態が明らかになった場合、送り出し機関からの受入を停止する措置等を講じる」とした。

政府は決定を早急に執行し、送り出し機関の実態を調査したうえ、違反事案については受入停止につき断固たる措置を執るべきである。

8 制度の抜本的見直しの方向性
  1. 外国人研修生制度とは、前述したとおり、「開発途上にある国々に対して技術・技能を移転させることを目的として、我が国に研修生を招いて技術移転による人材育成を行い、それらの国々の発展を支援するという長く広くその効果が浸透していく国際協力・国際貢献」(法務省入国管理局)であるとされ、かかる目的から、受入機関には、研修内容が単純な反復作業の研修でないこと、研修時間の3分の1以上の時間を日本語研修などの「非実務研修」(いわゆる座学研修)に当てる必要があることを原則としている。

    しかしながら、「研修」とは認めがたい単純な反復作業の労働に従事させられ、非実務研修に割く時間がないほど研修時から長時間の実務研修が行われているのが実態である。

    その結果、日本政府は、表向きには外国人に対して単純労働のための在留資格を認めていないにも拘わらず、多くの研修生・実習生は「きわめて安価な労働力」として、また転職のできない「管理された労働力」として働かされ、人権侵害が頻発し、「現代の奴隷」と批判される事態が生じており、なかには、実質的に人身売買と指摘せざるを得ない事例すら存在する。

    制度目的と現実の乖離は甚だしく、もはや制度の破綻は明らかである。 

    2008年10月、国連自由権規約委員会は、外国人研修生問題に関して、日本国政府に対し、「法定最低賃金や社会保障をはじめとする最低労働基準に関する国内法による保護 を外国人研修生および技能実習生に適用し、研修生と技能実習生を搾取した雇用主に対して適性な制裁措置を科すべきである。また締約国(日本国)は、現行の制度を、研修生及び技能実習生の権利が十分に保護される新たな枠組みに発展させ、低賃金労働者としての募集よりも、能力開発に焦点をあてることを検討すべきである」と勧告をなした。

    ことここにいたっては、制度趣旨と乖離した本制度を維持するのかどうかを含めた抜本的な見直しが必要であると考える。

    このような人権侵害が多発するような制度は制度設計自体に問題がある。そもそも、上記の述べたとおり、途中帰国による保証金の没収などをおそれて研修生・技能実習生は不正行為の申告をためらう傾向にあるのであり、不正行為が摘発されるのは氷山の一角にすぎない。これだけ問題点が指摘され、関係諸機関が取り締まりを強化しているにもかかわらず、違反事例が平成18年度229件から平成19年度449件となお増加している実態を直視すべきである。現状の改善を図るためには、取り締まりや罰則の強化だけでは、不十分であり、制度の抜本的見直しが検討されるべきである。

    また、現行制度を維持するにしても、研修生に対し、労働諸法規の適用のないことが低賃金労働者として酷使される「現代の奴隷」といわれる事態を惹起させていることあきらかである。少なくとも研修生に対し、労働関係諸法の適用があった場合と同様の保護があたえられるべきである。


  2. 団体監理型研修制度の廃止について

    平成15年から平成19年の5年間に不正行為が認定された1160件のうち1128件は団体監理型である*2。経済産業省も「こうした不正行為を行っている受け入れ企業では、研修・技能実習生に対する十分な技能教育や生活支援なども行われていないケースが多いと言われておりまさに制度趣旨に反する受け入れ実態となっている」*7と指摘しているところである。このような実情からは、団体監理型は廃止するのが妥当と考える。

      

  3. 技能実習制度について

    研修制度は、技能移転を通じた開発途上国への国際協力というその趣旨通りに厳格な運用がなされれば、意義があるとも考えられる。

    しかしながら、技能実習制度は、労働でありながら、他企業への転職を認められていないため、技能実習生の受入機関に対する正当な権利主張を妨げ、受け入れ機関や送り出し機関による人権侵害を誘発している実態が存在する。このような弊害のある技能実習制度は、受入機関の変更を認めるなど抜本的な改正を行うべきである。


*7 入国管理局 平成19年度の「不正行為」認定について
9 結び

以上のとおりであり、当会は国に対し、研修生の実務研修に関し労働関係諸法の適用を受けると同様の保護を与える立法を行うこと、及び団体監理型研修制度を廃止することを含めた、制度の抜本的な見直しをなすことを求めるものである。

また、同制度の改正がなされるまでの当分の間は,外国人研修生・技能実習生の受入機関に対する指導、監督をより強化することを求める。

以上






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