決議書 (簡易裁判所判事・副検事経験者の活用問題について)
平成15年2月26日
決  議  書
 (簡易裁判所判事・副検事経験者の活用問題について)
名古屋弁護士会
                  会長  成 田  清
第一 本決議の趣旨
 
最高裁判所と法務省の提案にかかる、簡易裁判所判事・副検事の経験者に対する後記提案内容記載の資格付与案について反対する。
第二 理由
一 総論
1 提案内容
 司法制度改革審議会意見書は「特任検事・副検事・簡易裁判所判事経験者の有する専門性の活用等を検討し、少なくとも、特任検事への法曹資格の付与を行うための制度整備を行うべきである」と述べているところであるが、最高裁判所と法務省は簡易裁判所判事・副検事の経験者に対し下記のとおり「準」弁護士資格を付与することを提案している。
(民事関連)(注1)
  1. 簡易裁判所における、民事訴訟、即決和解、支払督促、証拠保全手続、民事保全及び民事調停の手続について、代理すること。
  2. 民事に関する紛争に関して、法律相談をすること。
  3. 民事に関する紛争に関る裁判外の和解について、代理すること。
(刑事関連)(注2)
  1. 簡易裁判所に公訴の提起された事件について、弁護人となること。
  2. 公訴提起前の刑事事件(ただし、法定刑に死刑又は無期懲役刑がある罪に係る事件を除く。)について、弁護人となること。
  3. 弁護人となった事件に関する示談(裁判外の和解)について、被疑者又は被告人を代理すること。
  4. 刑事に関する法律相談をすること。
  5. 刑事法令に触れる行為の被害者等の依頼を受けて、刑事に関する法令に基づく手続を代理すること。
(注1)副検事経験者の民事関連の職務範囲は、更に、「刑罰法令に触れる行為による被害の回復に係るもの」に限定される。

(注2)なお、いわゆる刑事和解(犯罪被害者等保護を図るための刑事手続きに付随する措置に関する法律4条)における被害者等の代理もできるものとする。
2 制度の必要性
 しかし、そもそもかかる議論の背景には、法曹資格者の不足によるリーガルサービスが不足しているという認識があるところ、現在法曹の大幅増員によりこの点の解消が図られようとしているところであるから、後記のような重大な問題を含む制度を導入し、これらの者に対して法曹資格を付与する必要性はない。
 簡易裁判所判事・副検事経験者の専門性を活かして何らかの資格を与えることが国民の司法アクセスにとって有用であるとしても、現在これらの者に対しては司法書士の資格が与えられるのであって、その範囲においてリーガルサービスを提供しうるのであるから今後、法曹人口が大幅に増員される状況のもとで、さらにその範囲を超えて前述した「準」弁護士という法曹資格を与える積極的意義も必要性も認められない。

3 制度の相当性
 弁護士と職務範囲の限定された「準」弁護士(民事関連については簡易裁判所判事経験者と副検事経験者とで職範囲は異なる)の区別は、法的手続きを依頼しようとする国民にとってわかりにくく混乱を招くものである。

 「準」弁護士に民事紛争を相談し、解決を依頼しても裁判外での和解ができず訴訟せざるを得なくなった場合、簡易裁判所の事物管轄を超える紛争については別途弁護士に依頼しなければならなくなる。

 刑事関連についても同様で、被疑者段階での弁護を依頼しても地方裁判所に起訴されると弁護人を別途弁護士に依頼しなければならなくなる。

 このように中途半端な「準」弁護士を認めることがかえって本来の法曹制度、とりわけ国民の弁護士制度に対する信頼を損なうおそれのあることを考えれば、かような制度の導入は相当でなく到底是認できないものである。

二 法曹資格及び法曹養成制度
1 法曹資格〜能力的担保・専門教育
 法曹資格は原則として司法試験に合格した者に対し、司法修習により裁判所・検察庁・弁護士会の法曹三者における実務修習を経た後に与えられるものである。

 法曹資格者が法曹資格を有するゆえんは、一定の能力的な基礎のある者が、法曹三者の立場から民事・刑事事件についての総合的な専門教育を受けることで司法作用全体に対して一般的な専門基礎知識を有し、それぞれの取り扱い分野においてもそれらの総合的な知識を活かして処理判断をする能力を有していることにある。

 これに対して簡易裁判所判事・副検事とも内部試験により登用されるものであって、これが司法試験に匹敵するほどの能力的担保制度といえるかは疑問である。

 さらに簡易裁判所判事・副検事とも任官前後にわたって研修を受けているものの、これらは裁判官・検察官としての事件処理についての研修であり、法曹三者の立場からの総合的な研修である司法修習・法科大学院における教育とは異質のものである。また、簡易裁判所判事・副検事が法廷や事件処理の過程で日常的に弁護士と接しているからといっても、それはあくまで片面的な関わり合いに過ぎず、法曹としての素養や弁護士としての使命を十分習得しているとは到底考えらない。

 従って、簡易裁判所判事・副検事への登用試験は司法試験と同等の能力的担保になるとは考えられず、またそれぞれの職務経験も裁判官・検察官の立場からの片面的なものであって、これらに対して彼らが経験していないところの弁護士業務について「準」弁護士という法曹資格を与えることについては、極めて重大な問題があるといわざるをえない。
2 司法制度改革の理念に逆行する
 そして現在、司法制度改革審議会でロースクールの設置が定められ、法科大学院でのプロセスとしての法曹養成制度の充実が図られようとしている。

 すなわち、法科大学院では2年間あるいは3年間、実体法の知識から訴訟における法曹三者それぞれの果たす役割について充実した教育を実施し、そのような教育を受け、十分な知識と素養を持った者に対して法曹資格を与えようとしているのである。

 これに対して法曹三者のうちの断片的な知識と経験しか有していないものに対して「準」弁護士という法曹資格を与えようというのは、法曹養成制度を充実し、よりよい法曹を生み出そうという司法改革の理念に逆行するものと言わねばならない。
三 制度的な問題点
1 簡易裁判所判事制度自体の問題点
 簡易裁判所は少額軽微な事件を扱うが、少額軽微であってもやはり裁判作用であるから、それは本来地裁と同じく法曹資格を有する裁判官により担われることが原則である。

 これに対し、裁判所法が簡易裁判所判事に法曹資格が不要とした趣旨は、戦後簡易裁判所が設立された際の、手軽に利用できる地域に密着した裁判所を構成しようという理念に根ざしている側面もあるものの、実際は簡裁の数に見合うだけの法曹資格者たる裁判官を確保することが不可能という状況のもとで、法曹資格者である裁判官以外にも裁判官を確保しなければならないという必要性との妥協によるものである。

 しかし、簡易裁判所が実質的には地方裁判所と殆ど同じ役割を演じ、法曹資格者以外の簡易裁判所判事のほとんどが書記官出身者で占められている現状のもとでは、地域密着という理念は大幅に後退しているを言わざるをえない。結局のところ、法曹資格者以外の簡易裁判所判事は、本来であれば法曹資格者によって担われるべきものの「肩代わり」をしているにすぎない。

 またさらに、実際には簡易裁判所判事のほとんどは裁判所の書記官から内部試験で登用されており、手続きとしては推薦委員会から推薦を受け、筆記試験等の法律試験や人物試験を経て選考されているが、このような内部試験による選抜が司法試験に匹敵するほどの能力的担保となるかは疑問である。

 よって、簡易裁判所の判事を法曹資格者以外から登用する現在の制度自体に問題があるばかりか、さらにこのように裁判官の仕事の一部を肩代わりさせているにすぎない簡易裁判所判事に対して、法曹資格を与えるのは本末転倒であるといわざるをえない。

 法曹資格者以外を裁判官として登用する現在の制度は、法曹人口増員のもとでは、むしろ可及的早期に廃止されるのが望ましいものであり、更に簡易裁判所判所経験者に対して前述した内容の準弁護士という法曹資格を与えることは妥当ではない。

2 副検事制度自体の問題点
 検察官は、刑事について、公訴を行い、裁判所に法の正当な適用を請求し、且つ、裁判の執行を監督する等公益の代表者として、職務を遂行するものであるから、法曹資格を有する検察官によって、担われることが、原則である。

 これに対して、検察庁法により、副検事制度が認めるに至つたのは、戦後、裁判所法の実施に伴い違警罪即決例が廃止され、従来警察署長によって即決されていた違警罪事件(拘留、科料にあたる罪)はすべて検察官の起訴によって簡易裁判所に係属することになり、事件の激増を見たことに端を発する。これに対応して、にわかに多数の検事を養成することは困難であつたので、この検事の人手不足を補うため、副検事制度を認めると共に、また、副検事から検事への昇進の道を開くことによって、検察事務官等の優遇による能率の増進を図るという必要性との妥協による産物であった。

 公益の代表者たる検察官の職務の重大性に鑑みれば、何時までも、検察庁内において、検事、副検事という資格を認めて、2段階構造を採用しておく必然性はない。検察官が、公益の代表者として、起訴を独占し、国民や国民生活を犯罪から擁護するという重要な責務を有していることからすれば、人員不足を理由とする制度については、人員の確保こそ、最優先課題であり、人員の確保のために、法曹養成制度を経ない副検事の資格を付与する制度自体が、むしろ解消されるべきである。

 そして現在、司法制度改革審議会でロースクールの設置が定められ、法科大学院でのプロセスとしての法曹養成制度の充実が図られてようとしているわけであるから、検察官も含めた法曹資格者の増員により、国民の司法制度に対する信頼を充実させるべきであって、副検事制度を温存したうえ、副検事経験者に前述した内容の準弁護士資格という法曹資格を与えることは、国民の司法に対する信頼に反する点で妥当でない。
四 「準」弁護士制度の創設についての問題点
1 弁護士及び弁護士会の使命
 弁護士は、「基本的人権を擁護し、社会正義を実現する」との使命に基づいて、国民にとって「頼もしい権利の護り手」であるとともに、「信頼しうる正義の担い手」とならなければならない。

 弁護士は、法律家としての専門的訓練を受けた法曹資格を有し、基本的人権の擁護と社会正義実現の使命を与えられており、司法の中でも、最後の人権の擁護者たる役割を期待されている。そのような使命のもと、弁護士に法律事務を独占させ、弁護士自治を付与して、人権擁護に遺漏なきを期している。しかしながら、今回の「準」弁護士と資格を付与する制度は、弁護士制度に異質なものを持ち込むこととなり、かような制度は後述するとおり国民の信頼を損なうことになり、ひいては弁護士自治を中核とする弁護士制度のあり方を歪めるものとなる。

2 国民の混乱と弁護士に対する信頼の低下
 前述したように、簡易裁判所判事・副検事経験者に付与される権限には制限が加えられているが、これはすなわち本来の弁護士とは別に、権限において制限された「準」弁護士という新たな資格の創設に他ならない。

 しかし、このような「準」弁護士を弁護士会の監督下に入れ、新たに弁護士の一部として扱えというのは、以下のように利用者である国民を混乱させるばかりか、弁護士制度に対する国民の信頼を大きく損なうものであるから到底是認できるものではない。

 「準」弁護士資格の創設には、本来の法曹資格者に準ずる「準」法曹資格者を国民がそのニーズに合わせてこれを使い分けることを想定しているものと思われる。

 しかし、これまで弁護士は弁護士として法律に関する問題全般を扱ってきたのであるから、利用者である国民にとっては、「弁護士」というのは広く法律問題について専門的な知識を有するとの信頼のもとに、相談や事件の依頼をしてきたものである。今回の最高裁判所、法務省の提案にかかる「準」弁護士という法曹資格の付与案は、前述したとおり「準」弁護士の中でも簡易裁判所と副検事経験者で取り扱いうる業務を区別している。従って、「弁護士」に「弁護士」と「準」弁護士に二種類のものがあるとしたうえで、「準」弁護士の中に2種類のものを盛り込むこととなり、利用者たる国民の混乱を招くことは明らかであり、結局「弁護士」に対する全般的な信頼を損なうものであることは明らかである。

 また、社会に生起する事件は種々雑多であるから、一度副検事・簡易裁判所判事出身者に依頼した事件が簡易裁判所で完結せず地方裁判所の管轄に移ることもいくらでも生起するところであるが、地方裁判所ではこれら「準」弁護士がその事案をこれを扱えないということになるのであれば、国民に対して余分な労力と負担をかけることになるのは明らかである。

 この点、司法書士は簡裁代理権を有しているが、名称が異なることから国民もその差違を明確に認識することができ、上記のような混乱は生じない。

 結局のところ、簡易裁判所判事・副検事に「準」ではあっても「弁護士」資格を与えることにより国民に対する多大な不便と混乱が生じるのである。そうであれば弁護士及び弁護士会に対する不信を惹起し、ひいては司法全体に対する不信につながるものとなろう。

 従って、これらの者に対し「準」弁護士資格を与えること自体に強く反対する。

3 刑事弁護人について、憲法37条との抵触
 憲法37条は被疑者・被告人についての弁護人選任権を定め、刑事手続において、資格を有する弁護人により有効・適切な弁護を受けることを定めている。ここにおける刑事弁護人は、当然法曹資格を有する弁護士を想定しており、それは刑事手続において事物管轄なく逮捕・勾留から再審まで刑事手続き全般に亘って被疑者・被告人を援助しうる資格を持ち、さらに刑事手続のみならず、法律全般に対して知識を有し、有効・適切な弁護をしうる者を想定していると解される。

 しかるに、簡易裁判所判事・副検事が刑事手続についての知識を有するからといっても、自分が経験していない他の二者についての専門的な教育を受けているわけではなく、憲法の想定する有効・適切な弁護をなしうるかは疑問である。

 また、犯罪事実の管轄は極めて流動的なものであり、追起訴一つによって従来委任していた「準」弁護士がこれを取り扱いえなくなるというのであれば、依頼している被疑者・被告人は新しく弁護士を依頼して選任しなければならず、煩雑であり、かえって被疑者・被告人の権利を損なうおそれが大きいと言わざるをえない。

 よって、このような「準」弁護士制度自体は、憲法37条に反するものと考える。
五 結 論
 リーガルサービスの向上については、本来、法曹増員・養成制度の充実で図るべきである。

 結局、法曹資格自体を付与すべき必要性を見い出し難いばかりか、利用者である国民に混乱を与え、弁護士制度に対する悪影響を及ぼすことに鑑みれば、今回の提案に対し強く反対する。

以 上








行事案内とおしらせ 意見表明